昇進の内示をもらった同僚が、飲み会でこう言ったんです。「でも管理職になると税率上がるから、手取りは大して変わらないらしいよ。むしろ損かも」。周りも「あー、それ聞く」とうなずいていました。
この話、日本で一番広まっているお金の誤解だと私は思っています。はっきり書きます。収入が増えて、所得税のせいで手取りが減ることは、制度の構造上ありえません。今日はその理由を、階段の絵で説明します。
まず、税金がかかるまでの流れ
所得税は「収入ぜんぶ」にかかるわけではありません。会社員なら、収入からまず給与所得控除(会社員の経費にあたる分)が引かれ、さらに基礎控除や社会保険料控除などの各種控除が引かれます。残った金額が課税所得——税率を掛ける土台はこれです。
ちなみに、給与明細で所得税より大きな顔をして引かれているのは社会保険料です。「引かれもの」の正体を知るには、税と保険料を分けて見るのが第一歩です。
税率は「階段」になっている
課税所得には、5%から45%まで7段階の税率が設定されています(累進課税)。ここで誤解が生まれます。「課税所得が330万円を超えると税率20%」と聞くと、全体に20%かかるように聞こえますよね。違うんです。

正しくは、階段の各段に、その段の分だけ税率がかかる仕組みです。課税所得が331万円になっても、20%がかかるのは330万円を「はみ出した1万円」だけ。その下の部分は、5%の段は5%のまま、10%の段は10%のままです。
ここが今日の核心です
「税率が上がる」のは、増えた部分だけの話。だから収入が増えれば、手取りは必ず増えます。計算例で確かめましょう(復興特別所得税や住民税、各種控除の個人差は省いた概算です)。課税所得330万円の人が331万円になった場合、増える所得税は、はみ出た1万円×20%=約2,000円。手取りは1万円−2,000円=約8,000円のプラスです。逆転どころか、しっかり増えています。
「稼ぐと損」神話の正体は、この限界税率(はみ出た部分にかかる税率)と、全体の税率の混同です。あの飲み会の「管理職は損」も、計算すれば消える霧でした。※なお、パート収入の「壁」で手取りが一時的に減るケースは所得税ではなく社会保険料の加入ラインの話で、これは別の仕組みです(こちらの記事で解説しています)。
自分の「限界税率」を知ると、何が変わるか
自分がいまどの段にいるか(=限界税率)を知っていると、いろいろな判断の物差しになります。たとえばふるさと納税やiDeCoのような「所得控除が効く制度」の節税効果は、限界税率が高い人ほど大きい。同じ1万円の控除でも、5%の段の人と33%の段の人では、戻ってくる税金が違うんです。
で、私たちはどうすればいいのか
①年末にもらう源泉徴収票で「給与所得控除後の金額」と「所得控除の額の合計額」を見つけ、その差=自分の課税所得を出してみる。②国税庁の速算表で自分の限界税率を確認する。③「稼ぐと損」と誰かが言ったら、それが所得税の話か社会保険の話かを聞き分ける。この3つだけで、あなたはもう飲み会のあの会話に流されません。
💬 経済太郎の本音
私もかつて「昇給しても税金で持っていかれる」と口にしていた側です。初めて源泉徴収票と速算表を突き合わせた夜、自分の限界税率を知って、正直ちょっと悔しかった。何年も、計算すれば5分で消える思い込みのせいで、昇給を素直に喜べていなかったんですから。知識は、喜ぶ力でもあると思います。
よくある質問
Q. 住民税も同じ階段構造ですか?
A. いいえ。住民税(所得割)は課税所得に対しておおむね一律10%で、階段構造ではありません。所得税とは別の仕組みとして覚えておくとスッキリします。
Q. 税率の階段(速算表)はどこで見られますか?
A. 国税庁のウェブサイトに「所得税の税率」として速算表が公開されています。控除額つきの表になっているので、課税所得さえ分かれば自分で計算できます。
次に読むなら
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※本記事の計算はすべて概算例であり、復興特別所得税・住民税・個人ごとの控除は考慮していません。実際の税額は個人の状況により異なります。具体的な税務は税務署または税理士にご相談ください。

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