電気代の話をしていたら、知人にこう言われました。「でも日本は輸出大国だから、円安はトータルで得なんでしょ?」。——この「輸出大国」という言葉、実は私たちの頭の中で何十年か前のまま止まっているかもしれません。
今日は「貿易収支」。ニュースで「今月の貿易収支は赤字」と聞いて、なんとなく「負けた」ような気分になる、あの数字の正体です。そして後半で、多くの人が一度は引っかかる謎——「貿易赤字なのに、なぜ円安が続くのか」を解きます。
貿易収支は「輸出−輸入」
定義は引き算ひとつです。
貿易収支 = 輸出額 − 輸入額
プラスなら黒字(売った額のほうが多い)、マイナスなら赤字(買った額のほうが多い)。日本は自動車などを世界に売る一方で、原油やLNGといったエネルギー、食料、そしてスマホなどの製品を大量に買っています。エネルギーをほぼ輸入に頼る国なので、燃料が高くなるか円安になると、輸入額がふくらんで赤字方向に振れやすい体質です。

「輸出大国」のイメージは更新が必要
かつての日本は貿易黒字の象徴のような国でした。しかしいまは、生産拠点の海外移転が進み、「日本から輸出する」のではなく「海外で作って海外で売る」企業が増えました。さらに、私たちが毎月払うクラウドや動画配信などの海外ITサービス代——いわゆる「デジタル関連の支払い」も、海外へのお金の流出として存在感を増しています。貿易収支が赤字の年が珍しくない国。それが現在地です。
ここで大事なのは、貿易赤字=悪ではないということ。生きるために必要なエネルギーや食料を買えば赤字方向に振れますし、国全体では、海外に持つ工場や投資からの利子・配当という「貿易の外側の稼ぎ」が大きく育っています。モノの輸出で稼ぐ国から、投資で稼ぐ国へ。日本の稼ぎ方の重心は、静かに移ってきたのです。
ここが今日の核心です
では謎解きです。モノを買いすぎる(貿易赤字)なら、円を売って外貨を買う流れになるはずで、円安要因ではあります。でも、為替市場を動かしているお金は、モノの売り買いよりも、金利差を求めて動く投資マネーのほうが桁違いに大きい。
だから円相場の主役は、貿易収支ではなく日米の金利差——つまり日銀とFRBの政策なのです。「貿易赤字なのに円安が続く」のではなく、「貿易より大きなお金の流れが円安を作っている」。貿易収支だけを見て円相場を語るのは、川の表面の葉っぱを見て、水面下の本流を語るようなものです。
で、私たちはどうすればいいのか
①「貿易赤字=日本の負け」という反射を手放す。家計の赤字とは意味が違います。②円相場のニュースは、貿易収支より日銀の会合とFRBの金利判断で読む。③「輸出大国・日本」の地図を更新する。いまの日本は、モノの輸出と同じくらい「海外からの利子・配当」で稼ぐ国です。この視点は、円安が家計に与える影響を考えるときの土台になります。
💬 経済太郎の本音
取引先の製造業も、部品や材料はかなり輸入品です。「円安で輸出企業はウハウハ」という昔の物語を信じたままだと、円安のニュースで喜ぶべき会社と苦しむ会社を見誤る。私は営業の現場で、円安のたびに仕入れ担当の顔が曇るのを見てきました。教科書の物語は、ときどき現場で答え合わせが必要です。
よくある質問
Q. 貿易赤字が続くと、日本の借金が増えるのですか?
A. いいえ、国債(国の借金)とは別の話です。貿易収支は「モノの売り買いの差額」であって、国の財政の赤字・黒字とは仕組みが異なります。
Q. 経常収支という言葉も聞きます。違いは?
A. 経常収支は、貿易収支に加えて、海外投資からの利子・配当(第一次所得収支)やサービスの取引などを合算した、より広い「国の稼ぎの通信簿」です。日本は貿易が赤字でも、利子・配当の受け取りが大きいため、経常収支では黒字の年が多い——これが「投資で稼ぐ国」と呼ばれる理由です。
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